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◆アルバム 『BAD』をクインシー・ジョーンズとの関係性も絡めリズムアレンジから分析する [アルバム考察]

                           オリジナル2011.10.10Up 今回大幅加筆。

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 87年8月発表の『BAD』にスポットを当てたいと思います。『Thriller』の後に発売された『BAD』。全世界が注目するアルバムとなります。
 『スリラー』発売時、マイケル・ジャクソンはまだ全世界が注目するアーティストにはなっていなかったと思います。前作の『Off The Wall』の成功でR&Bのスーパースターには到達していた。
 しかし『スリラー』の世界的な売上とグラミー7部門受賞、セールスと音楽的な評価の両方の頂点を極め、まさにマイケル・ジャクソンはワールドワイドなスーパースターとなり、その新作は、USAだけでなく全世界が注目する事になります。
 そして、マイケルのライヴァルはマイケル自身でした。全世界の期待に応えなければならないというプレッシャー(という言葉では生ぬるい)と戦いながら不屈の精神で製作されたアルバムのように思います。アルバムは『BAD』は87年8月31日に全世界で解禁されます。

 今回、プロデューサーのクインシー・ジョーンズとの関係性も考えたいと思います。
 
 
 映画『WIZ』で音楽プロデューサーのクインシーと出会ったマイケル。自身のソロ作のプロデューサーとしてクインシーを迎えたいと希望するも、レコード会社やマイケルの周辺は、当時、R&BやPOPチャートでの実績が薄かったクインシーと組むことに難色を示した。しかし、マイケルは信念を貫きクインシーとアルバム制作をする事となります。 

マイケル・ジャクソン コンプリート・ワークス

マイケル・ジャクソン コンプリート・ワークス

  • 作者: ジョセフ・ヴォーゲル
  • 出版社/メーカー: ティー・オーエンタテインメント
  • 発売日: 2012/06/25
  • メディア: 大型本

 『マイケル・ジャクソン-コンプリート・ワークス-』によると、この時、マイケルとクインシーは3枚のアルバムを制作するという契約を交わしたのだそうです(けっこう驚き)。
その3枚が、79年『オフ・ザ・ウォール』、82年『スリラー』、87年『BAD』となるわけです。
 そして『BAD』の次のアルバムでは、クインシーとの契約はせず。91年に発表された『Dangerous』は、新たな才能テディー・ライリーを迎えるわけです。
 87年の『BAD』制作時、マイケル的にはクインシーの手を借りず自分だけで手がけたいという欲求があったかもしれません。逆に契約上、一緒に制作しなくてはならないという位だったのかも。
 2016年『オフ・ザ・ウォール』デラックスエディションが発売され、37年経ったこのアルバムが今でも高い評価を得ていることがわかりました。特に、アーティストやプロのミュージシャンの評価が高い。プロデューサーのロドニー・ジャーキンスの言葉を借りれば「『オフ・ザ・ウォール』の音は、今のものより優れている。純粋な生の音だからだ」と。『オフ・ザ・ウォール』は一流のミュージシャンが集い、クインシー・ジョーンズがその才能を統率、総合演出し、見事に仕上げた作品だった。ロドニーの言う生の本物の音とクインシーという最高のアレンジャーが仕上げた作品だから普遍なのです。 
 ここで、この時代の、テクノロジー、音楽機器の進化、デジタル化というものが絡んできます。まさに80年代はこのテクノロジーの進化が著しい、アナログからデジタルへと移行した転換点の時代だったとも言える。それこそ、一流ミュージシャンの手を借りなくとも機器がそれらの代わりを務めた。シンセサイザーは、ベース音の主流にもなり、録音技術の進化により様々なシンセ音も幾重にも重ねていくこともできた。ドラマーを呼ばなくともドラムマシーンが、様々なリズムとスネアを生み出した。その過渡期に制作されたのが82年の『スリラー』でした。
 デジタル録音で、多重録音も可能にし、サウンドに厚みもまし、様々な演出効果もうんだ。
『スリラー』は、サウンド的にはTOTO勢の功績は大きい。昔ながらのクインシー率いるミュージシャンの生演奏とテクノロジーの融合のバランスが絶妙だった。
 そして『BAD』が発売された87年という年は、デジタル元年といっていいかも。サウンドのデジタル化と録音技術はさらに進化する。音楽ソフトも、レコードからCDへとシフトしていった。象徴的なのが、86年のグラミーの最優秀プロデューサー、ジミー・ジャム&テリー・ルイス。彼らは、シンセサイザー、ドラム機器等を駆使し、ほぼ二人でサウンドを作り上げた。ジャネット・ジャクソンの『コントロール』さらにスケールアップした『リズム・ネイション』でその手腕が見える。
 87年の最優秀プロデューサー、ナラダ・マイケル・ウォルデンも、自身もドラマーではあるけど、テクノロジーを駆使し、ホイットニーヒューストン等に数々のヒット曲をもたらした。多くの一流ミュージシャンを従え作品を作り上げたクインシー・ジョーンズとは対照的なスタイルでグラミーを獲得するのです。

 『BAD』は、最新の(そしてかなり高額な)デジタル機材が惜しむことなく投入されたアルバムであると思います。マイケルにはそれだけの財力もありました。
それにより、生楽器に関してはクインシーに口出しすることが難しいマイケルも、自身と彼のブレインでクインシーの手を借りなくとも曲を仕上げることを可能にした。
 いろいろな本を読むと、『BAD』時、クインシーとマイケルはアルバム制作においてかなり衝突したとあります。『スリラー』は生楽器とデジタルのバランスが絶妙だった。そこはクインシーの手腕だと思う。『BAD』もこの辺で、最新デジタルサウンドを望むマイケルと、楽器とのバランスを考えるクインシーと意見の相違をうむ。
 マイケル自身、自身の曲の明確なビジョンを描けるからそれを表現しようとする。一方、様々なジャンルの音楽を吸収している生きるレジェンド、クインシーも長年の感覚というものがある。マイケルの自立をできるだけ尊重したとも思うのだけど、不足していると思ったら、やはりマイケルにそれを伝え、補おうとした。
成長期の子の親への反発に似た部分があると思う。
 
 マイケル・ジャクソンの成長は、アルバムの自作収録曲の数から伺える部分はよく目にする。それぞれのアルバムでのマイケル自作曲の収録数。

 『オフ・ザ・ウォール』  → 3曲(アルバム収録曲数10)
 『スリラー』        → 4曲(アルバム収録曲数9)
 『BAD』          → 9曲(アルバム収録曲数11)
 
 クインシー・ジョーンズの自伝を読んだり、ボックスセットも購入したりしてクインシーの人間性、音楽、才能をかみしめているのですが、クインシーがとても重要な事を述べています。それはアレンジの重要性です。
 前述のジャム&ルイスもクインシーに、「君たちはよいライターだし才能もある。しかしブラスやストリングスのアレンジができてこそ本物だ」と助言されています。
 クインシー自身も、「自分はプロデューサーである前にアレンジャーだ」とも言っています。クインシーSOUNDの素晴らしさのKeyは、特にリズムアレンジにあるのではないかという事を感じます。この視点で『BAD』を見るとまた違ったものが見えてきます。
 そこにマイケルとクインシーの違い、『スリラー』と『BAD』、さらに『オフ・ザ・ウォール』の差が見えてくるように思います。(誰かのパクリじゃないよ、おれが感じた事です)
 
 リズム・アレンジという視点でクインシー3部作でマイケルが手掛けた曲を振り返ります。
 
 ■『オフ・ザ・ウォール』 リズムアレンジ2曲

Off the Wall (2015)

Off the Wall (2015)

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Epic
  • 発売日: 2015/09/04
  • メディア: CD
今夜ドントストップ :グレッグ・フィリゲインズ&マイケル・ジャクソン
ワーキン・デイアンドナイト :グレッグ・フィリゲインズ&マイケル・ジャクソン
 
 クインシーファミリーの、キーボーディスト、グレッグ・フィリゲインズの力をかりているけど、このグルーブ感はマイケルそのもの。特に「ワーキン・デイアンドナイト」なんて。
 
  ■『スリラー』 リズムアレンジ3曲

THRILLER

THRILLER

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: EPIC
  • 発売日: 2015/09/04
  • メディア: CD
スターティン・サムシン:クインシー&マイケル・ジャクソン
ビート・イット:クインシー&マイケル・ジャクソン
ビリージーン:マイケル・ジャクソン
 
 ビリージーンのリズム・アレンジがマイケル単独とはあらためての驚き。
 
 そして『BAD』のリズム・アレンジメントは11曲中8曲。

BAD

BAD

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: EPIC
  • 発売日: 2015/09/04
  • メディア: CD
 その内訳。

MJ & Others 〉 5曲
 2  The Way You Make Me Feel  マイケル単独 
 6  Another Part Of Me
 9  Dirty Diana
 10  Smooth Criminal
 11  Leave Me Alone マイケル単独
 
〈 Quincy & MJ 〉 3曲
 1  BAD
 3  Speed Demon
 4  Liberian Girl

 〈 Quincy & Others〉 3曲
 5  Just Good Friends
 7  Man In The Mirror
 8  I Just Can't Stop Loving You
 
 『BAD』は11曲中、9曲がマイケル・ジャクソンの作詞・作曲ですが、Rhythm arrangementのクレジットを見ると、クインシーの力は借りずにマイケルが中心の曲(John Barnesがサポート)と、クインシーと共同の曲、クインシー主導の曲とあります。
 『BAD』制作時、マイケルはチーム・クインシーとは離れ、自宅のスタジアム(マイケルが“実験室”と読んだ)で、自分のアイデアを反映させてレコーディングできたのも、テクノロジーの進化の恩恵だと思います。
 
 マイケルの元である程度完成されたものが、クインシー・ジョーンズ率いるAチームの元で、プロ的なアレンジを施された感じ。
結局、アルバムの11曲中、リズムアレンジにマイケルが関わらなかった曲が、「Just Good Friends」「Man In The Mirror」「I Just Can't Stop Loving You」の3曲となります。大人のアレンジが、やはりチームクインシーっぽい。
 
 前述のようにベースはマイケル達が制作し、クインシーがアレンジを施したのが「BAD」「Speed Demon」「Liberian Girl」となる。
 ここで注目したいのが「BAD」です。
 『オフ・ザ・ウォール』の時もありましたが、初回プレス盤と後の分とではアレンジが変わっているのです。その顕著たるものが「BAD」。ホーンセクションの部分が後盤ではカットされているのです。初回盤では、ホーンが入ることで、グルーブ感とファンキー感が増して好きなんだけど、それが現行盤では消えている。
多分、ホーンを入れたのはクインシーのアイデアだと思うのですが、マイケルのイメージにはそぐわなかった。それで自身の主張を通し削除したものと思われます。
 
 そして、マイケル単独、またはブレインとともに作り上げた曲が「The Way You Make Me Feel」「Another Part Of Me」「Dirty Diana」「Smooth Criminal」「Leave Me Alone」となる。リズムアレンジに、クインシーの手を借りていない曲が6曲にも及ぶのです。やはりマイケルGrooveが充満した曲だと思います。
 当時、マイケルは気に入っていたスタイルの曲として「The Way You Make Me Feel」を上げている。このシャッフルグルーブは「Leave Me Alone」でも使われている。
 「Another Part Of Me」は当初、『BAD』収録が微妙だった曲みたいですが、クインシーの押しでマイケルも受け入れた。
『BAD』の中で、マイケルGroove全開なのは「Smooth Criminal」かな。
 
 『オフ・ザ・ウォール』『Thriller』『BAD』というクインシー3部作と呼ばれるこのアルバムの好みでその人のマイケルに向き合うスタンスがわかるかもしれません。
最近の人たちは、ビジュアル嗜好も影響して、やはり『BAD』を好む人が多いように思います。最新のテクノロジーを駆使すると、その時にはすごいインパクトを残しますが飽きもはやい。
 『オフ・ザ・ウォール』は演出的には、派手さはないので地味に感じるのかもしれませんが、その奥深かさはすさまじいものがあります。だからミュージシャン、アーティスト嗜好の強い人はこのアルバムを好む。『スリラー』は、生楽器とテクノロジーのバランスが絶妙なので一番好まれるのかもしれません。私も、どれか選べと言われたら ①スリラー ②オフ・ザ・ウォール ③BADの順になります。

 忘れてはいけないのが、録音に携わったエンジニアのブルース・スウェディン。『スリラー』『BAD』で最優秀録音賞を受賞しています。彼が絡むとめちゃくちゃ音がよくなります。
 クインシーがリズムアレンジに関わった曲とマイケル単独のものとは、正直な所、差があります。もっと突っ込んで言えば、(私の主観ですが)マイケル中心の方は割とシンプルなアレンジで深みにかける所もあるけど、マイケルのフィーリングが充満している。この感触がボーカルと融合してマイケルグルーブとなるわけで、誰もが真似できるものではない。
 マイケルがメインで手がけていない「リベリアン・ガール」や「Just Good Friends」はシングルカットせず、自分がメインで手がけた曲を優先してシングルカットしていきます。「リベリアン・ガール」はNo1シングルになれるポテンシャルをもった素晴らしい曲だったと思います。でもそれがクインシーからの卒業と言えばそうだと思います。
 もちろんマイケル・ジャクソンのアルバムなのだからマイケルの主張があって当然なのですが、『BAD』が、プロ中のプロが選定するグラミーで評価されなかった理由がその部分にあるのではという気もします。
 クインシーとしては、『BAD』に関しては消化不良的な部分があったかもしれません。かなりマイケルの主張を通した面があるのではないでしょうか。その不完全燃焼感を爆発させたのが、クインシーの89年のアルバム『BACK ON THE BLOCK』。
 
バック・オン・ザ・ブロック

バック・オン・ザ・ブロック

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: ダブリューイーエー・ジャパン
  • 発売日: 1995/05/25
  • メディア: CD
 
 マイケルのアルバムでできなかったアイデアを投入しているように思います。マイケルが拒んだヒップホップ感も満載。56歳とは思えないこのCreativeさは何??
 クインシーはこのアルバムで、最優秀アルバムと最優秀プロデューサー、当時人気のヒップホッパー達が集結した「Back On The Block」は「最優秀ラップグループ」を受賞。
 このクインシーのTasteが『BAD』に加わっていたらまたちがったスタイルになっていたのかな~等とも思ってしまう。(そしてブルース・スウェディンはここでも最優秀録音賞を受賞しています)

 といっても歴代のマイケルのアルバムで『BAD』はある意味、一番マイケルらしいアルバムだと思います。音楽的にもマイケルの主張が一番つまったアルバムだと思います。クインシーとの3部作契約を終え、マイケルは、クインシーと離れブレインのビル・ボトレルらと次のアルバムを制作しますが、ある意味行き詰った印象を受けます。
 そこで登場したのが、強烈なビートとこれまでにないHip Hop的なリズム・アレンジメントをするテディー・ライリーを呼び寄せる事になったのは必然かもしれません。
 次作『DANGEROUS』も相当な困難の中生み出されました。
 アルバムが完成するも、マイケルはアルバムに対して確信が持てなかったといいます。そしてこのアルバムの評価を聞きたい相手が、やはりクインシーでした。マイケルから『Dangerous』を送られたクインシーが、マイケルに返した言葉、「このアルバムは傑作だ」というものでした。
 『Dangerous』の制作過程についてはまた取り上げたいと思います。 

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