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◆ マイケル・ジャクソン死後の作品『MICHAEL』に収録された3曲(カシオトラック)はマイケルのボーカルではないのか!? アルバム『MICHAEL』も再考察する [マイケル死後・プロジェクト]

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 2009年6月25日、マイケル・ジャクソン逝去。マイケルの死後に、マイケルの意志を置き去りにしてエステート(マイケル遺産管理団体)とレコード会社主導でマイケルのアルバムが発表される事になります。複雑な思いはありましたが、個人的にはマイケルの曲が聞けるという喜びの方が強かった。2010年12月15日、アルバムタイトル『MICHAEL』として作品が発表されます。

MICHAEL

MICHAEL

  • アーティスト: マイケル・ジャクソン
  • 出版社/メーカー: SMJ
  • 発売日: 2018/03/21
  • メディア: CD

 アルバムが発表された当時からアルバムに収録されたTrackのいくつかがマイケルのボーカルではないという声があがり、今年、その疑惑とされた「Breaking News」「Keep Your Head Up」「Monster」の3曲が、ネット配信のリストから外されます。
 エステートの声明では、マイケルのボーカルである事を否定するのではなく、無用な議論に終止符をうつためという言い方をしている。本来のマイケルの作品に迷いなく向き合ってもらうためという事か。しかし、異例と言えば異例だし、何かスッキリしない。
 
 当時、アルバム『Michael』発表前に、まず「Breaking News」が解禁された。疑惑の1曲の一つだ。その時、正直、いつものマイケルの声ではないなとは感じたけど、全体的な空気感はマイケルだった。これから発表されるマイケルのアルバムでマイケルではない誰かが歌っているボーカル作品が収録されるなんて考えもしなかったので、多少の違和感をもちつつ「Breaking News」を受入れ、アルバム発売をまった。当時記した記事を交えつつ、今回の疑惑のボーカルと当時の制作背景をまじえて私の見解を述べたいと思います。


(まず、以下は当時の 2010年11月10日 に解禁された「Breaking News」を聞いたときの記事です。日記的にそこに当時の思いがあった。以下)

 Breaking News」がネットで解禁後、ボーカルが本人ものでないという疑惑があがっています。私は、MJ本人だと思っていますが、母親をはじめ親族が別人だといっているのは気がかりではあります。がやはりこのボーカルはMJだと思う。実はプロモーションの一環なのか? ブラザーのジャッキーも製作に関わっているという情報もみたし、ロドニー・ジャーキンスやテディー・ライリーという生き証人もいるわけだし。替玉ボーカルでMJ名義の名前のアルバムを出すほど、マイケル・ジャクソンを冒涜している行為はないのでそんな事をするわけがないし、あり得ない事です。
 
 ボーカルについていえば、MJの唱法は年齢とともに変わっている。変えていかなければならない身体的な状況にも陥っていたのかもしれない。『オフ・ザ・ウォール』と『スリラー』でも微妙にちがいますが、80年代前半のMJのボーカルは最高です。おれはいつも伸びやかという安直な表現しかできないのですが、その歌声に魅了される。『BAD』の頃から、ちょっとシャウトが強まったように思います。それはワイルドさを狙ったとこもあるかしれませんが。さらにのどをならす感じの独特の歌いまわし。ボーカルでリズムの一部を表現している感じ。この唱法は天才的。
 90年代に入り、『Dangerous』ではシャウト唱法はさらに強まっていきます。『History』は、MJの悲痛な叫びが詰まっているのでさらに攻撃的。「You Are Not Alone」は美しいですが、『オフ・ザ・ウォール』の「She is out of my life」の美しさには及ばない。
 
 そして『インヴィンシブル』です。当時聞いたとき、MJのボーカルの七変化さに驚きました。「2000 Watts」なんてこれってMJの声なの?って思いましたもん。年をとるとやはり低音になるしボーカル力も弱まると思う。MJは、ボーカル力の弱体化を実感していたのではないかとも思います。それをカバーするために、変化球的に様々な歌い方をした。せざるを得なかった気もします。
 
 2000年代に入って、裁判で創作活動の時間が奪われましたが、なかなかアルバムを出せなかったのは、ボーカルが万全でなかったからではないかとも思うのです。ボーカルは、肺、鼻、のど、そういう呼吸器官も万全でないといけません。(歌手と名乗ってタバコを吸ってる人はプロ意識はないと思う)素晴らしい楽曲がそろっても、それを歌いきるボーカル力がもどっていなかったのではないかと推測してしまうおれです。そういう意味で、万全の状態で歌えてないことが本来のマイケルのボーカルに思えないと言われている理由かもしれません。ただ死してなお、こんなにも話題になるMJはすごい・・・
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 上記が、当時『MICHAEL』発売前に記した思いです。あらためて自分でも読んで、当時の期待に満ちた思いもよびがえってきた。だってこれまでマイケルの作品に期待を裏切られたことはなかったから。
 ただ、発表され聞き込んだ後、複雑な思いをもつ作品となります。アルバム『MICHAEL』のレビュー時にも記しましたが、このアルバムは以下の3つの特徴をもつ曲が収録されている。

A  完成している曲だが、最終的な段階でアルバム選考から外れたもの
  (特に『Invincible』期)にさらに手を加えた。そこにマイケルの意思はない。


B  大まかな音とボーカルはふきこんであるが未完成の曲にかなりの手を加えた。いわゆるカシオトラックといわれる楽曲。共作者のエディ・カシオはマイケルより24歳年下の若者で家族的な付き合いをしていた家族の子供。放浪生活を続けていたマイケルが、2007年本国USAにもどり、避難的かつ療養的生活を送っていたカシオ家滞在時に制作した楽曲。

C  2008年に発売されると言われていたアルバム収録予定曲(ほぼ完成曲)


 マイケルは、アルバム制作に全身全霊を注ぎ、アルバム収録曲を選ぶのにも悩みに悩んだ。マイケルのアルバムに埋め合わせの楽曲なんてなかった。すべてシングル候補になり得るような完成度の高い曲が選ばれた。今回の『Michael』にマイケルの意志は反映されていないから、このアルバムにマイケルのコンセプトは感じる事ができない。

 あらためてアルバム『MICHAEL』に収録された楽曲を分類してみる。
                    (数字はアルバムの曲順)

A ⑨ 
Behind The Mask (1981) ⑩ Much Too Soon(1994)
  ② Hollywood Tonight (1999)  ⑧ Another Day(1999)
  ④ The Way You Love Me(2000)

B ⑤ Monster(2007) ⑦ Breaking News(2007)③Keep Your Head Up(2007) 

C   ① Hold My Hand(2007)⑥ Best Of Joy(2008)

 マイケル・ジャクソン『コンプリートワークス』を参考に、レコーディング年も記載した。こうしてみると、制作時期もバラバラなので、さらにアルバムコンセプトが不明瞭になる。そして、今回、疑惑のボーカルと言われているグループB
がカシオトラックと言われている3曲となる。

 この作品、マイケルの意志に関係なく発表された作品ではありますが、ファンとしては見逃せない曲はあります。この曲を聞くためだけでも買うべきとも思える。それが当時YMOを率いた坂本龍一が制作した「Behind The Mask」。ただし、当時の録音バージョンではなく、サックスを入れたり、疾走感を感じさせるアレンジとなっていたりする。最後にはなぜかシャニースのボーカルも入ってくるし。
80年代の楽曲ですが、そのせいかサウンドもボーカルも80'S的な感じがしないのが若干ざんねん。手を加えすぎている感は歪めない。

パルス(期間生産限定盤)

パルス(期間生産限定盤)

  • アーティスト: グレッグ・フィリンゲインズ
  • 出版社/メーカー: SMJ
  • 発売日: 2016/07/27
  • メディア: CD

 「Behind The Mask」は、マイケルのサウンドブレインの一人でもあったグレッグ・フィリンゲインズによるカバー曲も発表されており、このアレンジがマイケルがイメージしていたものと一番近いとされている。実際にアレンジのクレジットは、マイケルになっている。他にも、エリック・クラプトンがロックっぽいアレンジでカバー、坂本龍一自身もゲストボーカルをむかえて発表している(またまとめたいと思います)。
 
 あと『Invincible』からもれたレニー・クラヴィッツとの共演曲「(I Can't Make It) Another Day」。レニーはボーカルと、ギターPlayでも参加。レニーのギタープレイって独特のグルーブを持ってる。この曲は、さらにゴージャスに仕上げられたバージョンがあるのですが、今回収録されているのはそのバージョンではない。あと「Crush」という曲のインストが流出していた。
 この頃、レニーはグラミーも受賞し、マイケルが注目し共演を望んだのもわかる。レニクラファンは、この1曲のために購入する人もいると思う。

Baptism

Baptism

  • アーティスト: Kravitz, Lenny
  • 出版社/メーカー: Virgin
  • 発売日: 2004/04/16
  • メディア: CD

 さらに、この曲のサビが使われている「Storm」も2004年『BAPTISM』に収録、マイケルバージョンとは違い抑え気味なアレンジ、さらにJay-Zがラッピンしているという。
 さらにレニーは「Low」というマイケルをイメージした楽曲を制作。2018年の『Raise Vibration』に収録されています。この曲には「Another Day」で使われているマイケルの雄叫びがいい感じで入っています。「Low」はクインシー・ジョーンズもイメージしたとレニーは述べており、ホーンアレンジも最高。マイケルが歌うイメージがすごくあう。かなり好きな曲。マイケルに歌って欲しかった。
 
 それからエイコンとの「Hold My Hand」、当時制作されていたマイケルのNEWアルバムの1stシングル候補曲だった。
場合によってはアルバムタイトルが『Hold My Hand』になったかもしれない。
 エイコンは、アーティストとしてヒット曲を連発するだけでなく、プロデューサー、ライターとして、レディー・ガガやグウェン・ステファニーらPOPアーティストからスヌープ・ドッグらヒップホップ勢にも魅力的な曲も提供しヒットを飛ばしていた。さらに彼の独特の歌声は多くのアーティストから共演を望まれ、マイケルがニューアルバム制作で目をつけたアーティストとしては当然にように思う。

Hold My Hand

Hold My Hand

  • アーティスト: Jackson, Michael
  • 出版社/メーカー: Sony Music
  • 発売日: 2012/07/04
  • メディア: CD

 公式にアルバム収録され発表される予定曲だったがそのプランも流れ、エイコンの3rdアルバムに収録される方向にもなっていたが流出したため没になっていたままだった。

フリーダム+2

フリーダム+2

  • 出版社/メーカー: USMジャパン
  • 発売日: 2012/09/19
  • メディア: CD

 マイケルの思いが強い楽曲だった。
今となってはこの世にいないMJが「僕の手を取って」と歌っているのを聞くのは切ない。
 このアルバムからの1stシングルにもなる。チャート的にはHOT100-39位、R&B-33位という小ヒットにとどまっている。
 
 このように完成された注目曲は収録されており、アルバムとして聞くのではなく、こういった貴重な楽曲が収録されているという視点で購入するのはありだと思う。ただ一つのアルバムとして聞くにはコンセプトがめちゃくちゃです。

 疑惑の3曲についてふれるまえに、この『Michael』に収められた曲について年代順にふれたいと思います。
 
 まず1994年に録音されたSlow「Much Too Soon」は今回のアルバムのエンディング曲で、まさにふさわしい。1981年頃に、マイケルによって書かれた楽曲のようで、ずっとアルバム収録候補曲として存在していた曲のように思います。
 「僕は大人になるには早すぎたのか」というマイケルのリリックが切ない。84年のジャクソンズの『Victory』では、マイケルは「Be Not Always」という美しく切ないSlowを提供していますが、その時にも候補曲にもなっていたのかもしれない。ただ兄弟が集ったアルバムに提供するにはマイケルの内面が強い曲なので止めた面もありそう。最終的にきちんとした形でレコーディングされたのが1994年という事なので、『History
』用の候補曲だったように思います。マイケルの心情を吐露した作品『ヒストリー』にふさわしい。ただこのアルバムのエンディングは,、ご存じのように素晴らしすぎる「Smile」が収録されている。カバー曲とは言えこの時期のマイケルの思いを表現するのにこの曲ほどあうものはない。この後、曲のテーマ的にも「Much Too Soon」を収録するタイミングがなくなったように思いますが、今回の企画がなければずっと眠り続けていた曲だったかもしれません。マイケルの心情にふれ心に染み入る楽曲です。

 次に、Hollywood Tonight (1999) Another Day(1999)The Way You Love Me(2000)の3曲です。時期的にも『Invincible』(2000)の候補曲だったと思われます。
 Hollywood Tonightはデモ的ですが、レニクラとのアナザーデイ、The Way You Love Meはほぼ完成されている感じで、アルバム最終選考で外れた印象です。
 マイケルの未発表曲のアルバムは、この『Michael』に続き第2弾として『XSCAPE』があります。『XSCAPE』は、疑惑と呼ばれるような楽曲は一切なく、ある程度完成された楽曲を、現代的なアレンジでTimbalandたちが蘇らせている。

エスケイプ デラックス・エディション(完全生産限定盤)(DVD付)

エスケイプ デラックス・エディション(完全生産限定盤)(DVD付)

  • 出版社/メーカー: SMJ
  • 発売日: 2014/05/21
  • メディア: CD

『XSCAPE』も収録曲の年代がバラバラではありますが、『Invincible』からもれた作品、「Xscape」「Chikago」「Blue Gangsta」「A Place With No Name」の4曲が収録されている。「Xscape」はそんなに好みではないですが、Dr.Freeze制作の「Blue Gangsta」「A Plave With No Name」、Slowの「シカゴ」はアルバム選考からもれたのがなぜ?と思う位すばらしい楽曲。まあアルバム全体のバランスの中からのセレクトなのかと思います。
 そして「Cry」のカップリング曲にもなった「Shout」もある(2000wattsと競合か)。さらに
『Michael』収録のこの3曲を加えてみると、計8曲。
 この外にも未発表曲も収録された4枚組ベストの『The Ultimate Collection』には、『インビンシブル』の選考から外れた「Beautiful Girl」「Fall Again」『Michael』収録とはとはちょっとちがうアレンジの「The Way You Love Me」(Ultimateの方が好き)。「We've Had Enough」が収録。後にベスト盤『Number Ones』に収録されたR.ケリー作の「One More Chance」もある。もう一つの『Invincible』が作れるくらい。
 この他にもまだ『インビ』期には高クオリティーの作品が出来上がっているようなのです。マイケル、おそるべしです。でも素晴らしい楽曲が出来すぎたことにより『インビンシブル』沼にはまりリリースが遅れた側面もあります。

 次にグループ③の Hold My Hand(2007) Best Of Joy(2008)の2曲です。
2008年頃から、『Invincible』から発表されていなかったマイケルのNEWアルバムの話題が出てきました。そのアルバム用に制作された候補曲の2曲。
 これまでのマイケル作品は、エッジのきいたかっこいい楽曲が多かったですが、この2曲はヒューマンチックな優しい曲です。いろいろな苦難をのりこえたマイケルが、この頃たどりついた心境がこれらの楽曲に表現されているのかもしれません。
 このニューアルバムには、当時人気絶頂のブラック・アイド・ピーズのWill I AmやNe-Yoの名前も上がっていた。ウィルとは少なくとも6曲を制作したという。

Songs About Girls

Songs About Girls

  • アーティスト: Will I Am
  • 出版社/メーカー: Interscope
  • 発売日: 2008/07/11
  • メディア: CD
上記はウィルの2007年のソロ作(マイケルとの関連はない)

 それもデモ的なものではなくほぼ完成している状態。彼との曲も、当初この『Michael』に収録される予定だったと思う。しかし、ウィルは収録を断った模様。完璧主義のマイケルがOKを出していないのに、表に出すことはマイケルは望んでいるとは思えないし、失礼極まりないという見解。このレコード会社主導の未発表アルバムについても否定的な立場を明確にとっている。
Will I Am めちゃくちゃ良識人。また好きになった。ウィルやニーヨとの曲も加わったらもう少しNewアルバム的な感触はあったかもしれません。

 そしてそのニューアルバムの候補曲として問題のカシオトラックの3曲も登場するわけです。これらの楽曲は急に出てきたものではなく、(私がマイケルに向けられている疑惑報道を完全否定する際の引用元としてもよくとりあげている)フランク・カシオの本でも取り上げられている。

マイ・フレンド・マイケル

マイ・フレンド・マイケル

  • 出版社/メーカー: 飛鳥新社
  • 発売日: 2012/06/19
  • メディア: 単行本

 カシオファミリーについて簡単に紹介すると、イタリアの移民としてアメリカに来た一家。ニューヨークの名門ホテルのVIPエリアの担当マネージャーだったのがこの本の著者フランク・カシオの父・ドミニクだった。その職務の誠実さと人柄にマイケルが惚れ込み、カシオ家との交流が始まる。フランクの父はある意味おもてなしの天才だったのだと思う。そして当時、幼少だったカシオ兄弟とのふれあいも始まったのです。
 カシオ家の人たちは、マイケルを一人の人間として、過剰に敬うこともなく、畏れることもなく、正当に対等に誠実に思いやりを持って接したのだと思う。そして、マイケルの心が開かれた。マイケルとカシオファミリーはクリスマスを一緒に過ごす仲にもなる。まさにマイケルの第2の家族となるのです。
 フランク・カシオは、22歳離れているマイケルと親子のような、親友のようなつきあいをしていきます。18歳になる頃には、マネージャー、代理人としてマイケルのビジネス、音楽活動にも関わるようになる。ビジネスになると、マイケルはシビアな面もあったという。フランクは、ずっとマイケルと公私にわたって交流を続けていくわけです。2003年のマーティン・バシールによる悪意あるドキュメント番組に対して、すぐに反証する番組を制作し、バシールの悪意を浮き彫りにしマイケルの汚名をはらしたのもフランク・カシオです。
 フランク・カシオは、1993年、疑惑の告発をしたジョーディー・チャンドラー少年をはじめとする少年達と同世代で、一緒にネバーランドで過ごしてもいる。そのフランクが、マイケルが他の少年達と接する姿を一番近くで見ているのです。まさにマイケルが小児性愛者とよばれる人ではないという事を身をもって感じ、発言もしているのです。フランクは、ジョーディーがそのような告発をしたと聞いたとき、荒唐無稽すぎて唖然としたと。
 良好な関係だった彼らでしたが、2003年、再び偽りの告発(アルヴィーゾ少年による)でマイケルは苦境に立たされる。その際、フランクも加害者側として告発された事もあり、マイケルの無実を証明するため、共謀罪の認定も回避すべくあえてマイケルと距離を置くよう、弁護士のメゼロウに命じられてからマイケルと会えなくなる状態となる。それがマイケルのフランクに対する誤解をうみ二人の関係性は一度断然状態に陥る(後にもちろん和解しますが)。
 その頃から、フランクにかわってマイケルをサポートしたのが2歳下の弟・エディ・カシオだったのです。エディは、ミュージシャン志望で音楽活動を続けていた。エディが音楽に興味をもちはじめたのはマイケルの影響があったのは間違いない。マイケルほど、偉大で有能な先生はいないだろう。世界一のエンターテイナーなのだから。マイケルは、フランク兄弟の世界を拡げるために世界ツアーにも同行させ、自ら彼らに勉強も教えたりしていた。
 
 マイケルに話を戻すと、2005年6月に、アルヴィーゾ事件に関してマイケルは完全無罪を勝ち取る。その後、マイケルは一つの場所の定住せず、ジプシーのような放浪生活を始める。10月には中東のバーレーンに永住するというコメントも出され、イスラム教に改宗するような話も出てくる。マイケルの母国USAに対する不信は拭えないものになっていたと想像する。アメリカにいたらまたいつ陥れられるかわからないという恐怖もあったと思う。
 2007年1月~3月には日本にも来日、マイケルと写真を撮ることが出来る等のファンイベントも企画されましたが、40万円という値段。パフォーマンスはなし・・・この辺は、正直な所、キャッシュを得るための企画だったと思います。
 放浪生活ではあったけど、常に子どもたちと一緒だった。音楽活動はできなかったけど、この数年はマイケルにとってある意味満ち足りた時間だったと思う。
 
 2007年6月、マイケルは米国、ロサンゼルスに戻る。この辺りから音楽活動を開始する環境が整いはじめていく。やはりレコード会社はソニーとなり、まず『スリラー』25周年記念盤のプロジェクトが始動。『スリラー』の楽曲群が、ウィル・アイ・アムやエイコン、カニエ・ウェストら新しい才能と融合し、新たな現代的なバージョンが作られ、それらも収録されるのです。(個人的には、その楽曲もオリジナルを超えれていないけど)

スリラー 25周年記念リミテッド・エディション(DVD付)

スリラー 25周年記念リミテッド・エディション(DVD付)

  • アーティスト: マイケル・ジャクソン
  • 出版社/メーカー: SMJ(SME)(M)
  • 発売日: 2008/02/20
  • メディア: CD

 こうして音楽活動を再開したマイケルに再びシーンは注目する。当然のごとくニューアルバムの制作にもとりかかる。(そしてその次のプランが『This Is It』ツアーだった)その初期段階のレコーディングが、カシオトラックだったように思います。
 
 ここでひっかっかるのが、なぜ身内的な関係とはいえエディ・カシオという25歳の無名とも言えるミュージシャンとレコーディングしたかという事だ。これまでマイケルは、その恐るべきとも言える眼力でシーンのトッププ
ロデューサーを選定し呼び寄せた。ある意味、節操がないと思われるくらい。その顕著な出来事が、兄、ジャーメインが当時のNo1 ProducerともいえるLA&BABYFACEとアルバムレコーディング中にもかかわらず、中断させて彼らを呼び寄せた。この事はジャーメインに怒りと悲しみをもたらし「Word Too The Badd!」という愛憎ソングも生み出した。(キングから声がかかってホイホイすぐに出向いたLAFACEもどうかと思うけど、キングからの声かけですからね)
 このようにシーンのトップ of ザ・トップと身を削ってアルバム制作をしていたマイケルが、なぜエディ・カシオとレコーディングしたのか?という事だ。エディ・カシオが、この後、有名プロデューサーになっていたら説得力はあるのだけど、その現実はない。
 言えるとしたら、才能とか関係なく、原点にたちかえってリラックスした曲作りを行える環境がカシオ家にあったのではという事だ。カシオ家のレコーディングスタジオはそこまで立派なものではなかったと想像する。マイケルがこれまで使ってきたスタジオと比較したらどれだけの違いがあるか。でもそういった素朴な環境だからこそ、マイケルは再び音楽活動をするパワーを得たのかもしれない。ある意味リハビリ的な感じでゆっくりとリラックスした環境で音楽を作り始めたのかもしれない。フランクもマイケルが曲作りに戻ってくれてうれしいという表現を使っている。
 当初、マイケルのためにレコーディングしていたというより、エディーは自分の音楽作りをしていたのかもしれない。そこにマイケルがサポートに入っていくうちに、マイケル作品を作る方向にシフトしていったのかもしれない。そして、2人の友人でもあるジェームズ・ポルテも加わり12曲ができあがったと。今回、その内の3曲が選ばれることになる。
 
 ここでさらに考えるのが、なぜこのカシオトラックがマイケル死後のアルバムに選ばれたかということだ。この『Michael』制作にあたってマイケルの未発表曲は、かなりあったと思われる。それこそ1980年代の頃から。『Michael』の次に発表された未発表曲集『Xscape』は、80年代、90年代、2000年代から制作総指揮をしたLAリードが完成度の高さに重点を置いて楽曲をセレクトしている。

 今回の『Michael』に関しては、エステートとソニーはニューアルバムという表現で売り出していた。マイケル本人の意志がないのにニューアルバムだなんて、冒涜に近いものがあるけど、そのコンセプトはマイケルが世に出そうとしていたニューアルバムのコンセプトを想定したのではないかという事だ。

 『スリラー』期に外された「Behind The Mask」や『インビンシブル』期の「Another Day」などが収録されたからそのコンセプトがちょっとぶれた感じはあるけど、ニューアルバムの1stシングルにしたかったという「Hold My Hand」を筆頭に、Will I amやロドニー・ジャーキンスとマイケルがニューアルバムに向けてレコーディングしていた楽曲があったはずだ。しかし、ウィルは、マイケルの意志をくんでアルバム提供を断った(彼に権限もあるんだなと思った)。ソニーとしては、アルバム制作の中で当てにしていた楽曲が収録できなくなり、消極的な選択肢としてカシオトラックが浮上してきたのではという推察だ。12曲録音されたという中から、マイケルが(生きていたら)選んだであろうマイケル色の強い3曲をソニーが選んだのではないのか。
 カシオ家は、売名行為だとかマイケルを食いものにしているとか批判されたりもするらしいけど、このカシオトラックは、カシオ側から売り込んだというよりソニー側から提供を依頼された気がする。(推測だけど)
 そしてレコーディングが行われた家のスタジオ、ほんと趣味に毛がはえたようなスタジオだったのではなかろうか。なので、録音されたボーカルもしっかり録れておらず、カシオトラックをプロデュースしたテディー・ライリーをはじめとしたエンジニアらによって技術的にボーカルを取り出したのではと推測する。小さい声の箇所も、ソフトを使って大きくしたりもしているのでは。テクノロジーによって再生できた面が大いにあるのではと思う。実際、テディー・ライリーは加工ソフトを使用したことを公にしている。(ボーカルを加工している時点で実際、アウトだと思う)
 解禁トラックの「Breaking News」が登場してから、母・キャサリンや兄・ティトや3Tの息子達がマイケルの声ではないと言い始め、シーンにも動揺がはしる。ソニーは、前もってマイケルのボーカルであると裏をとってからアルバム制作を進めたと思っていたけど、記事をみると、それを受けてブルース・スウェディン、テディー・ライリー、ドクター・フリーズらマイケルと仕事をしてきたプロデューサーやエンジニア的な人にそのボーカルを聞いてもらい、マイケル・ジャクソンに間違いないという確認をとった感じ。代理ボーカルとされたジェイソン・マラカイの関与も否定する。声紋鑑定もした記事もある。
 カシオトラックのうち「Monster」が一番ひどいでき。「Keep Your Head Up」はこの中でも一番ボーカルがクリアで判断がつきやすいと思うのだけど疑惑の1曲とされている。最初「Hollywood Tonight」もボーカルの輪郭がボンヤリしているのでカシオトラックかと思ったら、この曲には疑惑の目が向けられていないという。
 
 「
Breaking News」もボーカルはたしかにはっきりはしない感じ。あらためてネットで情報確認してると「Breaking News」のWikiのクレジットでバックボーカルにJason Malachi(ジェイソン・マラカイ)が入っている・・・
 このクレジットを見て思ったのが、ほとんどはマイケルが歌ってはいるものの、ボーカルがうまくとれていない箇所をマラカイが補った説。それはあるかもしれないなと。
 マラカイのボーカル、聞いたことはあります。彼は白人のボーカリストでネットでもその姿と声はあがっている。以前『
7even』というアウトテイク集が出まわっていました。このトラック集には「What More Can I Give」の通常バージョンとスパニッシュバージョン、『Xscape』が出る前に収録されていた「Xscape」や「Gangsta(No Friend Of Mine)」というレアトラックが収録されている中、マラカイが歌っている曲も収録されていました。私も聞いていますが、ふつうにCD流していて、すぐにこれマイケルじゃない!というのは判別がつきました。似てると言えば似てるけど、明確に違うとわかった。が、今回の『Michael』収録の疑惑の3曲にそこまでの違和感はなかった。

  ただ何度も言うように「Monster」はひどい。正直な所、一番、マイケルのボーカルっぽくない。前述のマラカイの雰囲気はある。雑誌とかのレビューでは、50centも参加し最高にキャッチーでエキサイティングとかあったけど、「Breaking News」よりもボーカルはさらに不明瞭、加えてマイケルのタイミングで発するべき「ハッ」「アオ~」という声が、切り貼りで挿入されているという。この加工の仕方は、完全NGだしマイケルを冒涜していると思うよ。それを加えることで、楽曲のグルーブ感、マイケル色を出そうとしたと思うのだけど、一聴してテクノロジー的な貼り付けってわかるのでぜんぜんなじめないという。ただ50centはマイケルから声かけがあった事実は認めている。マイケルの空気感も強くて素材としてはすごくおもしろいけど、磨きあげられないまま不完全な形で世に出てしまった。
 
 カシオトラックが問題なのが、ある程度完成されているデモ曲ではなく、ほんとに初期のラフなデモを素材にしたという所だと思う。弁護するなら、マイケルの書いたメロディーラインだったり、リリックだとは思うので、それを聞けるのはありがたい。

 でも過去にも触れているようにマイケルのプロフェッショナルぶりは『This Is It』でも垣間見れた。キーボーディストに、1音の音の完ぺきさも求めた。自分のイメージに到達していなかったら、周囲にそれを指摘した。「僕は怒っているのではないんだ。これは愛なんだ」と。マイケルの妥協を許さない強いスタンスと愛で、マイケルにふれたアーティストやミュージシャンは高められるのだと思う。

 アルバム『Michael』はまだ入手できるので、疑惑と言われている3曲も聞ける。しかし、現代的な音楽提供サービスであるネット配信で、3曲が外された。ただもしマイケル・ジャクソン名義のアルバムで、別の人間が歌っていてそれを発売して利益を得たとしたら、レコード会社的には詐欺的な犯罪になると思う。アルバムの回収命令とかもでるのか、めちゃくちゃ混乱と動揺が走ると思う。けど現時点では、配信から3曲が外されたという事実。超ラフなデモ曲を、マイケル・ジャクソン名義で配信し続けるのは、マイケルに対して失礼極まりないという思いでの判断だと思っている。今さら的な所はあるけど、過去の判断のあやまちにに向き合うことは大切だ。
 もともとカシオトラック疑惑が表面化したのは、ファンによる訴訟。法的な観点からのもの。マイケルが歌っていないのにマイケル・ジャクソンのアルバムとして売り出し利益を得るのは違法行為でしょう。
 マイケルとレコーディングしていないのに、したと言うのならカシオ兄弟はうそつき扱いではすまされない。しかし、フランク・カシオの本にふれるとフランクとマイケルの絆の強さを感じます。彼らが売名行為でマイケルの楽曲を提供したというのは考えにくいのです。そして、カシオファミリーは、オプラ・ウィンフリーのインタビューも受け、長年の親密な関係とこの曲のレコーディングの経緯について答えているもよう。(このインタビュー見たことないんだ)

 結論的には、カシオトラックの3曲は、マイケル・ジャクソンのボーカルである。録音環境の悪さから、ボーカルをとりだすために加工ソフトを使ったことにより疑惑のボーカルとなった。問題は、この初期の段階のデモボーカルを素材に使ったこと。
 楽曲制作時、満足できるボーカルが録れるまでマイケルは何十回も歌い直した。それは、ProducerのLA&BABYFACEやDavid Fosterも述べてる。フォスターなんて、いい加減にやめてほしいと思ったとまで述べている。そのマイケルがこのような不完全なボーカルを素材にして制作された曲が、自身の死後に発表されたことを喜んでいるとは思えない。その思いにも応えて、ソニー側は今回の対応をしたというのが私の思いです。
 
 今回の配信サービスの削除は、やはり疑惑のボーカルだったと誤解を生む要素もありスッキリしないけど、完成されていないマイケルの歌声を配信続けるのもたしかに疑問(特にMonster)。でもアルバムはまだ普通に買えるよね。また売上げ伸びたりして。

 マイケル・ジャクソンの『MICHAEL』、前代未聞の作品だけどすばらしい楽曲も収録されているのも事実です。以上が今回の件の私の推測と思いです。
 でもマイケルが生き続けていてくれたら、このような中途半端な形の曲達が世に出されることはなかったし、これが同じ曲なのかと驚くような仕上がりに作り上げたにちがいない。マイケルが生き続けてくれさえすれば・・・『Invincible』に続くNewアルバムを聞きたかった。この『Michael』にその断片を少しでも感じる事ができれば、この作品が世に出た意味はあると思う。


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トミーマーチ

遅々と順番に読ませていただいてて、ちょうど過去記事の
アルバム「MICHAEL」についてのところでした笑 今回は新たにこの話題に触れているとお聞きし、こちらも読ませていただきました。

死の謎同様、疑惑の一種であり、マファンが避けたがる話題に取り組むAmberさんとはシンパシーを感じます。もちろん情報収集はAmberさんに及ぶべくもないのですが。
このカシオトラックについてはもちろん、私は未発表曲についてはMJの資料としてとらえており、もちろん「This Is It」を始め、「Love Never Felt So Good」や「Slave To The Rhythm」など、お気に入りの曲もありますが、特に死後に発表されたものに関しては一線を引いております。

その上での今回の3曲…正直最近は「MICHAEL」自体、全然聴いてませんでした苦笑 あらためて聴いてみて…まず、「Keep Your Head Up」は、Amberさんの仰るように'80sの香りがして非常にいい楽曲に仕上がってますね。別の所で言いましたが、「Behind The Mask」もそういうアレンジにして欲しかったのに、最後のブカレストライヴかな、「How are you doing!?」で興ざめです。「40th Thriller」にはデモが入ると嬉しいのですが。

続いて「Monster(Feat. 50 Cent)」は、私は良いと思います(音楽的な好み)。しかしこれもAmberさんの指摘には頷けます。「ハッ!」の乱用がひどいですね。MJを茶化してるように思えます。

最後に「Breaking News」。私はこれが一番ひどく感じました。メロディラインはカッコいい。しかし歌詞がひど過ぎます。怒りに満ちた「D.S.」ですら、トム・スネドン氏をもじって歌っているのに、自分の名前とはいえ、「マイケル・ジャクソン」を連呼する歌には和感しか感じません。言葉は悪いですが、正直ダサい。
もちろんメディアに対する恨みは、彼の中で忘れられるものではないでしょう。しかし子供達という宝を得、アルバム「Invincible」の「Privacy」以上にド直球な批判歌詞を今さら歌うものでしょうか。アーティストとは、どんなに私心が入ったとしても自分自身の名詞を題材にしたとたん、それは広がりを限定してしまいます。尾崎豊がどれだけ私心を入れても、「バイクを盗んだ尾崎」とは歌わない笑 入れたら、もうそれは万人には届かないからです。マイケルを否定することになるかも知れないのですが、率直な感想です。

しかし声の真偽については正直分かりません(技術的なことには弱い)。もしマラカイ氏の声で販売していたら、それはレコード会社の詐欺。確かにそうですね。それに、そもそもマラカイ氏にとって、ブートの「7even」はともかく、マファンを欺いたとしたら、いかに歌声が優れている事の証明になろうとも、一生恨まれるでしょう。それも冒涜ととられるでしょう。売名としてもハイリスクですね。。。
しかしマイケル本人となると、それはそれで、先に述べた「Breaking News」の歌詞批判が後ろめたいのですが…。

長文になり、本当にすみません。。。また順を追って楽しく読ませていただきます。

by トミーマーチ (2022-08-30 02:23) 

amber35

トミーさんの見解、私のBlogのコメに留めておくのはもったいない感じです。

「Behind The Mask」は当時の空気感はほぼ消されていますよね。ライブ音源や原曲アレンジになりサックスいれたり、女性ボーカル入れたり、相当手を加えてる。足し算しすぎでなんか、本来マイケルがひかれていた空気感がなくなってるように思います。こうして世に出たのはほんとうに貴重な事なのですが。

「Monster」素材的には、マイケル特有のダーク感もあってすごくよい素材だと思うのですが、サウンドもボーカルも中途半端すぎます。特にボーカルがマイケルっぽくない。この「ハッ」の貼り付けは、ダイアナ・ロスとの「Eaten Alive」でも「ダッ」の貼り付けはありましたが、あれか完全にリミックス仕様でしたから。

「Breaking News」のリリックの分析、するどいですね。自分の楽曲で自分の名前を歌うって、これまでのマイケルの楽曲でも前代未聞です。これはたしかに賛否両論。こんなラフな仕上がりではなく、マイケルによって完成した形になったら、このリリックも陳腐な感じがしなかったかもしれません。何分、疑惑のボーカルで「マイケル・ジャクソン」を連呼するとさらにそれが強まる印象です。

トミーさんの率直な感想、感謝です。

by amber35 (2022-08-30 22:39) 

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