ORiGINAL 2014.6.11 UPに若干追記
マイケル・ジャクソンの逝去後の2枚目のアルバムが2014年5月13日に発売されました。NEWアルバムという言い方もされていますが、ニューアルバムという表現は適切ではないと思います。
前回の記事でも書きましたが、発表された8曲中、6曲のほとんどは既にリークされていて、私も1年以上前から聞いている曲でした。1stシングルにもなった「Love Never Felt So Good」と「Slave To The Rhythm」はふつうにヘビロテでした。 「シカゴ」と「She Was Lovin Me」は初めて聴いた曲で、いいですね。
今回、アルバムの指揮をとったのがEPIC・SONYのCEOに就任したLAリード。元々ミュージシャン(ドラマー)でLA&BABYFACEのチームで80年代後半から90年代前半、ヒットを連発(ボビー・ブラウンやホイットニー等)したプロデューサー。BABYFACEとコンビを解消してからは経営の方にまわりこれまた数多くの成功を収めていく。かなりやり手の人。
ライナーノーツに書いてありましたが、EPICのトップに就任して、彼がすぐに着手したのがこのマイケル・ジャクソンのプロジェクトだったそうです。そしてLAリードのハートをつかんだ曲が前述の「Love Never Felt So Good」でした。これまでのMJの曲でもありそうでなかったストレートでピュアなラブ・ソング。そして、MJの肉体はこの世にない今、今回ダンスという視覚にうったえるものがない事で、より鮮明となるマイケルのボーカルの素晴らしさです。
この曲、「オフ・ザ・ウォール」期かと思ったら「スリラー」セッションだと。しかし、マイケル・ジャクソンの楽曲大辞典のような『MICHAEL JACKSON FOR THE RECORD』では1980年のレコーディングとなってる。「This Is It」と同じ時期だと思うので、1980年説が正しいと思うオレ。そしてマイケルのボーカルは躍動感に満ち溢れています。
MICHAEL
- アーティスト: マイケル・ジャクソン
- 出版社/メーカー: ソニーミュージックジャパンインターナショナル
- 発売日: 2010/12/15
- メディア: CD
今回のアルバムは、前作のマイケル死去後に発売された『MICHAEL』ほど曲の完成度にばらつきは感じませんが、やはりこれまでマイケルが制作したアルバムほどの完璧な調和感はない。リードはティンバランドを軸のプロデューサーに据えていますが、それでもやはりトータル感はうすい。
その要因の一つに、やはりボーカルの録音時期にバラつきがあるからだと思います。リードのいうコンテンポライズ化でサウンドは今風(そこまで今風とも思えないけど)にしても、精通している人が聞けばわかるマイケルのボーカルの質は統一感を薄れさせる。
ちょっと整理をしてみます。
〈 スリラー・セッション期??オフ・ザ・ウォール期では 〉
Love Never Felt So Good (83 or 80)
〈 BAD・セッション期 〉 She Was Lovin Me (86-87) 〈 DANGEROUS・セッション期 〉 Slave To The Rhythm (91) Do You Know Where Your Children Are (93)〈 INVINCIBLE・セッション期 〉 Chikago Blue Gangsta A Place With No Name XSCAPE 80年代と『インビンシブル』期ではボーカルの勢いが違います。特に最初の2曲のボーカルの素晴らしさといったら!今回、ダンス(ビジュアル)というものは必然的にないため、ボーカルとサウンドが主体になるわけですが、その事によりマイケルのボーカルの素晴らしさというものをあらためて感じる。 LAリードは、エステートからアクセス権を与えられ、莫大と言われている未リリース曲の中からこの8曲を選定します。マイケルの意志を尊重したという点では、マイケルが最後まで歌い切っている曲=(イコール)マイケルの好みの曲というスタンスで決めたと。そしてその中に、自身も関わり『DANGEROUS』の選考からもれた「Slave To The Rhythm」も選ばれています。 何度も記していますが、マイケルの兄ジャーメインとのレコーディングを中断してかけつけて制作したマイケルとのセッション。しかし、この曲は『Dangerous』に収録されませんでした。
LAのパートナーのBABYFACEはその後、「WHY」「On The Line」という名曲をMJに書き残しています。この2曲は素晴らしい。ベビーフェイスは、すばらしい楽曲をマイケルに提供するもアルバムには収録されず。しかし、『インビンシブル』に、ついにBABYFACEの作品(「You Are Me Life」曲としてはふつう)が収録され、永年の夢であったMJとの共演ははたせたわけですが、LAはその時の屈辱と無念さはずっと胸の奥底に刻まれていたのではないのでしょうか。 しかし、今回の『XSCAPE』の制作ドキュメントDVDの中で、自身も気に入った曲ではあったがもう一つ何かが足りなかったとも述べている(これはけっこう意外というか驚きだった)。リード自身もアルバムの選考もれには納得している感じなのか。
そのLAリードが、今度はマイケルの未発表曲のアルバムを指揮するという機会を得るのです。今回あのキング・オブ・ポップのマイケル・ジャクソンのアルバムを出すという、ある意味MJをコントロールするチャンスを得るのです。
今回いろいろ新たに知った事ですが、その後もマイケルとの交流があったLAリード。ビジネスパートナーとして、自らのレーベルへの移籍も打診していた感じ。リードは、マイケルへの敬意ももちろん払いつつも、やはりレコード会社の経営者です。慈善事業でアルバムを出すわけではありません。出すからには売れるものを制作する必要もあるわけです。 今回のアルバムに関してのクインシー・ジョーンズのコメントはまだみていない。でも基本的なクインシーのスタンスは前作の時と同様、そんなに好意的なものではないと思う。今回アルバムをトータルプロデュースしたのは、LAリード。プロデューサーを選択したのは、マイケルではなくLAリードです。メインプロデューサーにTimbalandを据えたのも彼。MJではないのです。
ティンバランドは、今回のオファーに関してかなり悩んだそう。とても内省的に、逝去したマイケルのアルバム制作に参加する意義と意味を自分の人生ともリンクさせながら深く考え、悩み参加という結論に到達する。前回『Michael』でオレオレぶりが全開だったTeddy Rileyとは違い、そこに彼の謙虚さと誠実さを感じる。
しかし、マイケル・ジャクソンは自身のアルバムのメインプロデューサーににティンバランドを指名したことはなかった。ティンバが過去にマイケルと曲を作ったかは知らない。『インビンシブル』に、もろティンバ風の曲「Heratbreaker」があるけど、これはロドニー・ジャーキンスが制作。そのティンバがメインプロデューサーというのはちょっと疑問。
今回のプロジェクト、ロドニー・ジャーキンスも参加してる。彼こそ、晩年のマイケルとスタジオで多くの時間を過ごし、マイケルの人間性や音に対するこだわりも誰よりもわかっているはず。だからこそ彼も今回のプロジェクトの参加に悩んだそう。(今回の制作ドキュメント映像のロドニー、めちゃダイエットしてる!!)
Versatility
- アーティスト: Jerkins, Rodney
- 出版社/メーカー: Bungalo Records
- 発売日: 2006/07/04
- メディア: CD
LAリードは、ロドニーをあえてメインにしなかったのだと思う。ロドニーを軸にすると、『インビンシブル』part2になりかねない。まったく違う、新しいものを生み出したかった思いからティンバランドを選出したのだと思う。何かこれまでと違う、誰もがしたことのないような、みんなが驚くような試みは、いつもマイケルが望んでいた事。
LAもその思いは同じ部分もあると思うけど、それはやはりMJの意志ではなくLAリードの意志。今のマイケルだったら、メインProducerは、ファレル・ウィリアムスを選ぶかも。
のきなみ多くのファンは、オリジナルを好んでいる。デモとはいえ、そこにマイケルの意志と匂いを感じるからではないだろうか。もちろん今回、こうしてオリジナルの音源と現代化の両方を収録するという形をとった事は大いに支持される。でも聞くべきはオリジナル音源だと思う。 LAリード、ティンバランドは作品の出来栄えに大いに満足しているけど、このアルバムが『Invincible』や『Dangerous』にならぶ傑作かとなると、どうだろう。クインシー三部作のような30年近く経っても色褪せない深さがあるかといったらどうだろう。 それでは各楽曲の個人的な思いを綴ってみる。 XSCAPE タイトルにもなった「エスケイプ」は、正直なところ『インビ』に収録されたロドニーの曲と比較するとやっぱもれるだろうなって思う。さらに新たに蘇った「エスケイプ」よりまだオリジナルの方がいいんじゃないっていう感想。タイトル的なインパクトはうまいけど、アルバムタイトルになるような秀曲だろうかって思う。ティンバランドのカラーにあわせているようなアレンジをしてるし、ロドニーらしさを感じない。 Chikago 今回、最大のときめきは「シカゴ」でした。こんなタイプの曲、聞いたことがなかった。深い表現力の物語風の楽曲。『インビンシブル』に入っていてもよかったと思える秀曲。 ただ『インビ』に収録されたテディー・ライリー制作のバラード「Don't Walk Away」とかぶったのかな~。MJはアルバムに同じタイプの曲はいれない。タイプの違った曲で、その中で最高の楽曲を選び抜いた。 Blue Gangsta、A Place With No Name 今回、Dr.Freezeの制作した曲の質の高さに驚き。「Breakdown」は『インビ』に収録されたけど、「A Place With No Name」とこの「Blue Gangsta」も相当素晴らしい。どの曲も違った世界観が見事に描かれている。 正直な所、この2曲はオリジナルの方がいい。「Blue Gangsta」なんて当初マイケルが描いていたマフィアTasteが、現代版では消えているもん。さらにこの曲「No Friend Of Mine」というタイトルでラップがフューチャーされているバージョンがテンパメンタル自身にによってリークされたという情報もあります。ヒップホップ的なリズムアレンジなので、ラップ有りもぜんぜんよかった。 A Place With No Nameもオリジナルが全然好き。スターゲイトが制作したバージョンはぜんぜん好みじゃないな。マイケル愛は感じるけど。 この曲もアルバムに入ってもよかったような曲。 こうしてみると『インビンシブル』期にいかに質の高い曲が制作されていたかがよくわかる。まだすごいポテンシャルの曲はあるんだろうな。 P.Diddyもこの時期マイケル提供曲をレコーディングしたことを述べていたけど、自身も「聞かせてもらった楽曲が素晴らしかったから、自分の曲が収録されるかはわからない」と。 ファレルも提供したけど、収録されずジャスティン・ティンバーレイクのデビューアルバム『JUSTIFIED』(メインプロデューサーはTimbalandとファレル)が出来上がったわけだし。 逆に『インビンシブル』の混迷ぶりもみえてくるけど。でも最終的には、ロドニー・ジャーキンスとの曲を軸にすえた。 Slave To The Rhythm Slaveは、実際一緒にスタジオにはいったLAによると、23回もボーカルの録り直しをしたという、マイケルのすごさを感じるエピソードも知る。それだけこの曲に思い入れはあったのだろうけど、収録されず。 今回、LAFACEバージョンは驚きましたが、Timbalandのバージョンの他にトリッキー・スチュアート作といわれているエレクトリック・トランス風バージョンもあり、何度もいっていますがこのアレンジが最高に素晴らしい ジャスティン・ビーバーバージョンも騒がれていますが、これはいらない。逆にリリースしてほしくない。楽曲の良さが失われる。勝手なことするなよって感じ。個人的には、この曲がアルバムタイトルでもいいのにって思った。 Do You Know Where Your Children Are 『Dangerous』からもれたといわれている楽曲。児童虐待をテーマにしたシリアスな楽曲。今回、オリジナルとコンテンポライズバージョンがあるけど、もう一つのリークされていた出回っていたバージョン(今回のアルバムには未収録)がオリジナルかと思っていたけど、これはどの段階のものなのか。 多分、マイケルが最初に仕上げたバージョンが今回収録されていないバージョンだと思う。かなりエッジのきいたロック曲。今回のアルバムの発表前に。ミネアポリスのファンクバンド、Princeが作ったThe Timeのジェシー・ジョンソンがギターPlayをしたという話があったけど、最初このエッジ感からこの曲でのplayかと思ったら、がせネタだったか。 でもこのギターplay、Timeのアルバム『パンデモにアム』の「ブロンディー」の感触に似てるんだよな~。今回のブックレットを見ると、長年のマイケルをサポートしたデヴィッド・ウィリアムスのクレジット。 しかし、この曲は今回のアルバムでマイケルの意志が反映されていない曲No1だと思う。コンテンポライズ版は、オリジナルのイメージをまったく消している。 ロドニーが、この曲のリミックスバージョンを聞いて、「このアレンジはマイケル好みだ、ぜったい彼は気に入ったはずだ」って言ってたのが不思議。
この楽曲は、曲のかっこよさ云々の前に非常に重いテーマを扱っている。90年代に入り、地球の環境保全をテーマにした楽曲にも取り組んだマイケルだけど、児童虐待についても深刻に受け止めていた。
(誰か)私を救って という悲痛な思いをマイケルがシャウトボーカルで代弁する
そして、そのメッセージを向けているのは無関心な親たち
マイケルが児童虐待についての楽曲を初めてアルバムに収録したのが『History』での「Little Susie」でした。ここでは、親をはじめ周囲の無関心さを非難するというよりただただこの少女の悲劇的な死を嘆き悲しんだ歌だった。
今回、未発表曲アルバムという側面がクローズUpされがちだけど、この楽曲が、『Dangerous』か『History』に入っていたら、アルバムの中でも重要なメッセージをもった曲として注目されたと思う。そして、児童虐待を疑われたマイケルの冤罪も証明しているような楽曲でもある。 She Was Lovin Me LOVEソング。マイケルのボーカルが素晴らしい。『BAD』25周年記念盤に収録されたDemoトラック、「Free」「I'm So Blue」と同じマイケルの内面を感じるラブ・ソング。以前のBLOGの記事で、『BAD』というアルバムになった流れを書いたけど、『BAD』ではなく、本当のマイケルの内面を表現したボーカル主体の愛に満ち溢れたアルバムを出しても良かったんじゃないかなってまたまた思った。今回、またこうしてその一面を感じる曲に出会えたのは何よりの喜び。 Love Never Felt So Good 先行シングルにもなり、LAリードも魅了された楽曲。実はピアノとボーカル主体のシンプルなデモバージョンが、一番素晴らしいと思える1曲。ジャスティン・ティンバーレイクとのDuoもよいけど、シンプルなデモバージョンが最高に魅了される。 以上が個人的な感想です。
今回のプロデューサーの選考にあたってティンバランドをメインにしたわけですが、ある意味ティンバランドの音はクセがある。それが強すぎるとマイケルのアルバムというよりティンバランドのアルバムになってしまう危険性があるとLAリードも言っていた。 ティンバランドもそこは気をつけたと。あまりサウンドが前面には出ないようにしたって言ってたけど「Slave To The Rhythm」ではバックボーカルで声かけまくってんだけど。「ホイ~、ホイ~」って。はまるとちょっとくせになるんだけど。やっぱりティンバランド色が濃いい印象。最近のティンバランドは、ジャスティン・ティンバーレイクとNo1ヒットを連発してたけど、ジャスティンとティンバの相性は抜群だけど、マイケルとはどうかなっていうのはある。謙虚なコメントを見てたけど、最後はティンバ自身も今回の出来に自画自賛。あのマイケル・ジャクソンの曲を自身がコントロールして世に出せるなんて最高の喜びでしょう。
こうしてみるとマイケルのボーカルの素晴らしさを引き出すプロデューサーと言えば、クインシー・ジョーンズだったなってあらためて思う。マイケル・ジャクソンは、ライターでありプロデューサーであり、そしてダンサーであり、ボーカリストである。マイケルにどれか一つ選んでって聞いたら、「ボーカリスト」って答えるんじゃないかな。 前回の『MICHAEL』よりはるかに完成された、誰が聞いてもマイケル・ジャクソンの歌声とグルーブを感じるアルバムです。LAリードをはじめ参加したプロデューサーのマイケルへの愛にも満ち溢れたアルバムだと思います。でもやはり限界も感じてしまう。 LAリードがタクトをふっても、やはりマイケル・ジャクソンがこれまで制作したアルバムの完成度には到底及ばない。かえってコンテンポライズ化とかいう言葉には、制作側の自己満足的な部分も感じてしまう。
あらたに聞けた曲もあり、ほんとに楽しめたしうれしくもあったけど、やっぱりマイケル・ジャクソンはもうこの世にはいないんだなという寂しさも感じたアルバムでした。言ってる事は矛盾してるかもしれないけど、個人的には第3弾なくてもいいとも思います。もちろん出れば迷いなく買いますが、是非早く第3弾アルバム出して!という気持ちにはまったくなれない。 強いて言うのなら、「Love Never Felt So Good」のような80年代前半の素晴らしいボーカルの素材群があるのなら、クインシー・ジョーンズの手によって蘇らせてほしい。80歳を超えてるクインシーだけど、最後のビックプロジェクトとして。そんな思いをもった今回の『XSCAPE』でした。